2022年4月1日に
「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」
が施行されます。
厚生労働省によると、この法改正の目的は、
より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため
とのことです。
2018年における高齢化率(全人口のうち、65歳以上の人口が占める割合)が28.1%(※総務省統計局調べ)と、世界で最も高い状況にある日本において、労働人口の減少は急速に進み、歯止めをかけることができません。
一方、高齢期の経済基盤をこれまでのように老齢年金のみにより充実させていくことも、困難であると言わざるを得ません。
このような社会情勢、経済情勢の変化に対応するため、法改正が行われるということです。
今回の改正が私たちの生活にどのような変化をもたらすのでしょうか。改正される内容は、大きく以下の4点となります。
目次 |
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【解説】
勤務先で被用者保険(厚生年金保険、健康保険)に加入すべき対象範囲が広がります。
被用者保険に加入すべきか否かを判断する際には
を確認する必要があります。
具体的には、パートタイマーなど、短時間で就労する労働者のうち、被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模の要件(現行、従業員数500人超)を段階的に引き下げることで、単純に被用者保険の加入者を増やす、ということです。
2022年10月に100人超規模、2024年10月に50人超規模に順次拡大されていきます。
賃金要件(月額8.8万円以上)、労働時間要件(週労働時間20時間以上)、学生除外要件については現行どおり、勤務期間要件(現行、1年以上)については撤廃、フルタイムの被保険者と同様の2か月超の要件が適用される事となりました。
また、強制適用の対象となる5人以上の個人事業所の適用業種に、弁護士、税理士等の士業が追加されました。
これまで職場で厚生年金、健康保険に加入せずに就労していた一定の方々も、今回の改正により、厚生年金、健康保険に加入しなければならなくなることが見込まれ、事業主、労働者双方がその影響を受けることになります。
事業主としては、パートタイマー等、被保険者となっていない従業員等の労働条件を確認する必要があります。
その上で、これまで配偶者などの扶養の範囲内に収めるため、労働条件を抑えて就労していた労働者に対し、
「2022年10月以降は下記の要件により、社会保険の被保険者となること」
を説明する必要があるでしょう。
対象 | 要件 | 平成28年10月~(現行) | 令和4年10月~(改正) | 令和6年10月~(改正) |
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事業所 | 事業所の規模 | 常時500人超 | 常時100人超 | 常時50人超 |
短時間労働者 | 労働時間 | 週の所定労働時間が20時間以上 | 変更なし | 変更なし |
賃金 | 月額88,000円以上 | 変更なし | 変更なし | |
勤務期間 | 継続して1年以上使用される見込み | 継続して2カ月を超えて使用される見込み | 継続して2カ月を超えて使用される見込み | |
適用除外 | 学生ではないこと | 変更なし | 変更なし |
月88,000円の判定は、基本給及び諸手当によって行います。ただし、残業代・賞与・臨時的な賃金等を含みません。
(※)判定基準に含まれないものの例
これまでは、「継続して1年以上使用される見込みの者」が条件でしたが、改正によりフルタイム等の被保険者と同様、「2か月を超えて使用される者」に変更されました。
どのようにしてその雇用の見込みを考えるか、については、以下により判断されます。
つまり、適用除外となるのは、契約期間が1年未満で、書面上更新可能性を示す記載がなく、更新の前例もない場合に限られています。
老齢厚生年金の受給権を取得(一般的には、現行65歳到達時)後に、雇用されるなどして厚生年金に加入した場合は、老齢厚生年金を受給しながら(もしくは支給停止されながら)厚生年金保険料を支払うことになります。
これまでは、その支払い続けている厚生年金保険料の年金額への反映は、退職時もしくは70歳到達時など、資格喪失した後にのみ改定されていました(いわゆる退職改定)。
本改正により、退職や70歳到達を待たずに、在職中であっても毎年10月分から年金額が改定されることになりました。
65歳以後も就労継続しながら、毎年、年金受給額が増えていく実感が得られるようになることは、高年齢層の就労拡大に期待が高まる改正となるでしょう。
イメージ図(出典:厚生労働省HP)
【現行】
【見直し内容】
※在職老齢年金制度とは 勤務先から得る賃金と年金の合計額が一定額以上になる60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象とし、全部または一部の年金支給を停止する制度のことです。
60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について、年金の支給が停止される基準が現行の賃金と年金月額の合計額28万円から47万円に緩和されます。
これにより、いままで年金が支給停止された状態で就労していた方のうち、一定の方は年金を受給しながら給与も得られることになります。
なお、65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)については、現行の基準47万円に変更はありません。
年金の繰下げ制度について選択肢が増えることとなりました。
現行制度においては、60歳から70歳までの間で、年金受給者の自由意思により年金受給開始時期について決定することが可能でした。
本改正により繰り下げの最大年齢が、70歳から75歳に改正されました。
繰下げ増額率は1月あたり、プラス0.7%ですので、75歳まで最大限に繰り下げた場合、最大プラス84%の増額率となります。
2022年4月から適用され、2022年4月1日以降に70歳に到達する方(1952年4月2日以降に生まれた方)が対象となります。
なお、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行われません。
イメージ図(出典:厚生労働省HP)
※世代としての平均的な給付総額を示しており、個人によっては受給期間が平均よりも短い人、長い人が存在する。
[参考]繰上げ・繰下げによる減額・増額率
減額率・増額率は請求時点(月単位)に応じて計算される。
請求時の年齢 | 60歳 | 61歳 | 62歳 | 63歳 | 64歳 | 65歳 | 66歳 | 67歳 | 68歳 | 69歳 | 70歳 | 71歳 | 72歳 | 73歳 | 74歳 | 75歳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
減額・増額率 (改正後) |
70% (76%) |
76% (80.8%) |
82% (85.6%) |
88% (90.4%) |
94% (95.2%) |
100.0% | 108.4% | 116.8% | 125.2% | 133.6% | 142.0% | 150.4% | 158.8% | 167.2% | 175.6% | 184.0% |
確定拠出年金とは、公的年金制度の上乗せとして、掛け金と運用収益の合計額を基に将来の年金給付額を増やすことができる制度です。
今回の改正点は、次の4点です。
現行制度では、企業型DCに加入可能年齢は65歳未満、個人型DC(iDeCo)は60歳未満となっているところ、2022年5月以降はそれぞれ5歳引き上げられ、企業型DCが70歳未満、個人型DC(iDeCo)は65歳未満になります。
現行制度では、受給開始時期を60歳〜70歳の間で自由に決めることができますが、先述の公的年金の受給開始時期(繰り下げ時期)の選択肢の拡大に伴い、2022年4月以降、確定拠出年金の受給開始時期の上限年齢も75歳まで引き上げられます。
「簡易型DC」は、中小企業を対象に、企業型DCの設立条件や手続を簡素化し、少ない事務負担で簡単導入できる企業年金制度のことです。
「iDeCoプラス」は、企業年金を実施していない中小企業が、iDeCoに加入している従業員の加入者掛金に追加して、事業主が掛金を拠出することができる制度です。
現行の制度では、これらの実施対象企業は「従業員100人以下規模」に限定されていますが、2022年10月以降は「従業員300人以下規模」に拡大されます。
現行制度では、企業型DC加入者のうち個人型DC(iDeCo)(月額2万円以内)に加入できるのは、労使の合意に基づき、企業側の掛金の上限を月額5.5万円から3.5万円に引き下げた企業の従業員に限定されているところ、2022年10月にはこの要件が緩和されます。
企業型DCの加入者向けWebサイトに個人型DC(iDeCo)掛金の拠出化の見込額を表示することで、規約の定めや事業主掛け金の上限引き下げがなくとも個人型DC(iDeCo)に加入できるようになりました。(ただし、全体の拠出限度額から企業側の掛金を控除した残余の範囲内に限る)
以上、大きく4つの年金制度改正をご説明いたしました。
なかでも、被用者保険の適用拡大にかかる改正については、事業主、労働者どちらの立場にあっても影響の大きい法改正となります。
個々の雇用契約内容について、今一度点検し直し、手続き漏れ、適用漏れなどないよう注意する必要があるでしょう。
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