労働契約(雇用契約)においては、雇う側(使用者)は、雇われる側(労働者)に対して、規律違反行為等に対する制裁として、懲戒処分を行うことがあります。
懲戒処分に対する法規制としては、労働契約法15条に、
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
との規定があります。
一般に、懲戒処分が有効かどうかの判断にあたっては、概ね、
①そもそも懲戒処分の根拠となる規定が就業規則等によって整備されているか
②懲戒処分とすべき客観的に合理的な理由があるか
③懲戒処分にすべきことが社会通念上相当といえるか(手続的な相当性を含む)
の3点によって判断されると説明されます。
なお、労働契約法15条は、もともとこのような判断枠組みを取っていた判例法理(の一部)を明文化したものであるため、上記の判断枠組みは労働契約法15条の規定に対応していることがお分かりいただけると思います。
懲戒処分が争われる場合は、まず使用者が懲戒処分を行ったうえで、労働者側でその懲戒処分に不服がある場合に、訴訟等でその効力を争うという流れが一般的です。
そうすると、使用者側が懲戒処分を行った当時は把握していなかったものの、懲戒処分の有効性の争いになるまでに新たに判明した事情があった際に、使用者としては、この事情も懲戒処分の理由として追加したいと考えることがあります。
しかし、結論からいうと、このような追加は認められません。
この点について判断をした最高裁判所の判例があります。
最高裁判所平成8年9月26日判決・判例タイムズ922号201頁〔山口観光事件〕は、「懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。」と判示しています。
なお、上記最高裁判例のいう「特段の事情」とは、使用者が認識していた懲戒の理由と実質的に同一性を有する場合や、同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有する場合をいうものと理解されており、これに沿う判示をしている下級審裁判例も見受けられます。(東京高裁平成13年9月12日判決、東京高裁平成30年2月28日判決、札幌地裁令和5年3月14日判決等)。
また、下級審裁判例においては、さらに進んで、懲戒処分時に使用者側が認識はしていたものの、懲戒の理由として敢えて表示しなかった事情についても、後に懲戒の理由として主張することを認めないとする判断をしているものもあります。
例えば、東京地裁平成24年3月13日判決は、「使用者側が懲戒当時に存在を認識しながら懲戒理由として表示しなかった非違行為についても、それが、懲戒理由とされた他の非違行為と密接に関連した同種の非違行為であるなどの特段の事情がない限り、使用者側があえて懲戒理由から外したこと(当該懲戒の理由とされたものではないこと)が明らかであるから、使用者側が後にこれを懲戒事由として主張することはできないというべきである。」と判示しています。
こちらは最高裁判所の判断ではありませんので、直ちにすべての事例に妥当するというわけではありませんが、懲戒処分を受ける労働者としては、懲戒の理由として表示された事項以外の事項については、それが懲戒の理由と同一ないし類似の事情等でない場合には、懲戒の理由にはなっていないと考えるのが自然であると思われるため、結論としては妥当であるという見方もできるでしょう。
このように、仮に、懲戒処分をした後で、懲戒処分の理由を基礎付けるような別個の事情が発覚しても、懲戒処分の理由として追加することはできません。
(別途懲戒処分をすべき理由になると判断した場合には、新たな懲戒処分をすることを検討する必要があります。)
また、懲戒処分の理由として表示していなかった別個の事情についても、懲戒処分の理由として追加することはできない可能性があります。
こうした判例等を見ていくと、懲戒処分をするにあたっては、事情をきちんと調査し、精査したうえで、どの理由をもって懲戒処分の理由に該当すると判断するのかを検討し、的確に表示することが望ましいといえるでしょう。
懲戒処分をするにあたっては、本稿で述べた内容以外にも留意すべき事項があります。
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