令和3年11月29日の報道で、元NECの子会社とその社員の裁判の判決内容が報道されていました。
内容は、元社員が転勤を拒否したところ、その勤務先の会社がその社員を解雇し、これに不服があった元社員が、勤務先に対して、解雇の無効確認などを求めたというものでした。
事情としては、事業所の閉鎖に伴って、希望退職か関東への転勤かどちらか選択するように勤務先から迫られたところ、嘔吐などの症状が出る持病がある子供がいたことから、その育児があることを理由に転勤・配置転換を拒否したということです。
これに対して、勤務先が、就業規則に
「配置転換命令」に応じない場合には懲戒解雇をする
という規定があったことから、元社員を懲戒解雇したという事案のようです。
解雇の無効などの確認を求められていた裁判所は、
業務上の必要性がある有効なものであるとし、長男の持病の状態を考慮しても、通常甘受すべき程度を著しく超えるような不利益があるとは言えない
として、懲戒解雇が有効であることを認めた、ということでした。
このような事例の「転勤」は、職場の「配置転換」の一種です。
職場の場所が変わることを一般的には「転勤」と言い、同じ場所の中で担当する業務内容などが変わることを「配置転換」と言うイメージだと思います。
日本の労働市場では、正社員の場合には定年までの期限を定めない労働契約が多いと思われます。
日本では、一度雇用すると簡単には解雇ができないと考えられています。
長期間の雇用関係の中で経済情勢の変動があることから、代わりに使用者には、労働者を「配置転換」する広い裁量があると考えられています。
そのため、業務上の必要性がある限り、「配置転換」は有効になることが大半でしょう。
例えば退職を自分から言い出させるために、業務上の必要性がないにもかかわらず過酷な労働につかせるなどした場合には、
「そもそも業務上の必要性がない」という観点で、配置転換が無効になる可能性はあります。
ただし、業務上の必要性があれば広い裁量権が認められるとしても、誰を配置転換するかの問題があります。
例えば、業務上の適性を有していないということであれば、その従業員を配置転換するしかありません。
一定の能力があればいいような業務の場合、その適性をもつ従業員が複数人いると、そのうち誰を配置転換するかは個々人の事情に配慮する必要性も出てくるでしょう。
例えば小さい子供の育児があるとか、高齢の親の介護があるとか、個人的な事情によって配置転換の人選が問題になることもあります。
今回の事案では、報道がされた限りでは、事業所の閉鎖に伴う配置転換(転勤)です。
したがって、事業所が閉鎖された以上はその場で行う仕事がなく、配置転換(転勤)がなければ仕事自体がないという状況ではないかと推測されます。
そのような事情の下では、配置転換(転勤)の必要性がかなり高く認められるのではないかと予想されます。
他方で、持病のある子供の育児があるという点は、例えば転勤先の地域の病院で適切に治療ができるなどの事情があれば、転勤の拒否を正当化するまでの事情とは言い難いように思われます。
こういった点は、具体的な事情を見てみなければ何とも言えませんが、配置転換をする際には、業務上の必要性と人選の問題に気をつける必要があるでしょう。
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