弁護士 杉浦 恵一
近年、残業規制の強化やインターネットなどによって情報の取得が容易になったことで、未払残業代の請求が増加傾向にあると思われます。
「この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」
つまり、残業代等の給料債権(賃金)は、発生から2年間で消滅時効にかかり、退職金など退職に関する債権は、発生から5年間で消滅時効にかかる、といった内容です。
この消滅時効ですが、所定の期間が来れば当然に消滅して、請求できなくなるというわけではなく、雇用主が認めるなど、一定の条件の下では延長したり、時効の期間がいったんリセットされたりする場合があります。
この消滅時効ですが、現在、時効期間を延長する話が進んでいます。民法の改正に伴い、民法にあった短期消滅時効が廃止され、原則として消滅時効を迎えるまでの期間が5年に統一されることになりますが、これとの均衡を図るため、労働基準法でも、賃金の消滅時効を5年間に延長するという改正が進んでいます。
現状、新型コロナウィルスの問題もあり、法改正がどうなるのか明確ではありませんが、いずれは賃金の消滅時効の期間が5年間に延びることになるでしょう。
ただ、現在の法改正では、賃金の消滅時効の期間は、当面の間は3年間とされることが予定されています。つまり、当面の間は、2年から3年と1年間延長し、急に大きく変わらないようになるようです。
また、この賃金の消滅時効の期間経過が始まる起算点は、賃金支払日から始まるということも、法改正では明確化されるようです。
そのため、法改正がされても、さかのぼって過去の賃金の消滅時効の期間まで延びるということはなさそうです。
とはいえ、実務上、賃金の時効期間が延びますと、大きな影響があるでしょう。
これまでは、2年間の時効期間がありますので、賃金を請求される側では、ひとまず2年間の消滅時効の援用・主張をして、争う範囲を2年分に限定した上で、交渉することがよくあります。
現在の労働基準法では、原則は1日8時間まで、1週間に40時間までの労働時間を、残業代が発生しない労働時間としています。 これを超えた部分は、変形労働制など特殊な労働形態をとっていない場合、時間外労働となりますので、残業代を支払う必要があります。
また、建設業、運送業などに多いと思われますが、土曜日や日曜日も勤務しても、基本給と手当しか支給せず、残業代を計算していなかったり、残業代を支払っていない企業も、ある程度見られるようです。
残業代を請求された場合に、基本給の中に残業代が含まれている合意があるとか、手当として残業代を支払っていると主張されることがよくありますが、裁判所では、残業代は基本給を分けて、残業代であることが明確に分かるようにしておかなければ、残業代の支払いだとは認められないことが大半です。(これ以外にも、注意点は色々とあります)
本来は週6日や7日分の給料を支払うところ、5日分の給料しか支払っていないとされれば、1年間で100万円単位で未払給料・残業代が発生することも、稀ではありません。
そのため、従業員が多い会社で、きちんと時間外労働の支給を行っていない会社は、一斉に残業代等の請求をされますと、経営的に問題が発生することも少なくないでしょう。
このような給料等の賃金債権の消滅時効の期間が延長されることを契機として、労働時間の見直し、就業規則の作成、時間外労働の賃金をきちんと支給するよう見直し、といった体制整備を、早めに行った方がいいでしょう。
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