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固定残業代が認められない可能性

弁護士 杉浦 恵一

固定残業代が認められない可能性

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最近では、インフレーションや企業業績の高まり、人手不足による募集活動の活発化などから、大企業では賃上げの機運が高まってきているようです。一部の企業では、初任給を引き上げるなど、新規卒業者や新規採用者の賃金も上がってきている傾向にあるようです。

最近のニュースで、某企業が、学歴や年次にかかわらず新規卒業者の採用で初任給を月40万円にするという話がありましたが、その賃金の内訳で、固定残業代として月17万2000円が含まれるということです。

この月17万2000円の固定残業代ですが、何時間分の残業代かというと月80時間分の残業代だということで、この固定残業代に相当する残業時間が話題になっていました。

まず固定残業代・定額残業代ですが、これは一定の範囲であらかじめ残業があることを見込み、その時間分をあらかじめ支払っておくという仕組みです。その月の残業時間が想定されている固定残業代の時間分に達しなくても、固定残業代は減額や精算はされず、想定されている残業時間を超えた場合には、超えた分について別途残業代が支払われる、というものです。

一定の範囲であらかじめ残業代を支給しておくことで、その時間の範囲内であれば、企業は残業代の計算をする必要がなく、その点では残業代計算の手間が省くことができるという点で、合理性があるとされています。

従業員の立場では、一定の残業代があらかじめ決まっており、残業時間がその固定残業代の見込み時間に達しない場合でも、精算や返金を求められないという点で、メリットがあると言われています。

こちらの固定残業代で80時間が見込まれているという点で話題になったのは、この80時間という固定残業時間をあらかじめ見込んでもいいのかという問題があるためです。

昨今の労働時間規制により、休日労働を含まない時間外の残業時間の上限を、原則として月45時間以内、年360時間以内とするように改正されることになりました(労働基準法36条4項)(大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から)。

また、その事業場における通常では予想することのできない業務量の大幅な増加等に伴って、臨時的にこのような限度時間を超えて労働させる必要がある場合には、労使間で合意をした場合であっても、時間外労働時間を年間720時間以内とし、時間外労働及び休日労働時間を月100時間未満にすること、2から6か月の平均的な労働時間を80時間以内としなければならないルールになりました。

これに加えて、原則である月45時間の時間外労働時間を超えることができるのは、年間で6か月間までとなっています。

このようなルールの変更があったことを考えますと、常に月80時間の時間外労働があることを前提にした固定残業代の設定をすることは問題がないのかという疑問が提起されているようです。

また、月80時間という労働時間は、厚生労働省が定める労働災害認定の基準との抵触も問題になりそうです。

厚生労働省の基準では、1か月で100時間以上の時間外労働をした場合、または2か月から6か月間の平均で月80時間の時間外労働をした場合で、何らかの傷病が発生したようなときは、これを労働災害認定の基準としています。

(一般的に、このような時間外労働の時間が過労死ラインとして労働災害の目安にされています)

そのため、このような健康を害する可能性がある時間外労働時間に達する残業時間を、固定残業代として設定することに対しても、疑問が提起されているようです。

固定残業代は認められるのか

固定残業代を設定した場合であっても、あまりに長期間の時間外労働を前提とする固定残業代は、裁判所で争いになった際に、信義則に反して無効と判断される可能性があります。

このような場合には、固定残業代の部分が基本給に含まれることになり、結果として残業代を計算する時間単価が高額になってしまう可能性も考えられます。

このような問題もありますので、残業代をあらかじめ固定残業代・定額残業代として設定するとしても、その金額や何時間分に相当するように設定するかは、慎重に考えた方がいいでしょう。

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