弁護士 杉浦 恵一
労働者の仕事の調整や人数の調整のため、労働者の不足を補うため、「出向」という方法を用いることがあります。
「出向」とは、その企業に所属したまま、別の企業で働くことを一般的には指しますが、出向の場合、出向元の企業と出向先の企業の双方と労働契約を結ぶことがあり、基本的には出向先の企業の指揮命令下にあることが多いようです。
新型コロナウイルス感染症により行動制限が行われていた頃には、某航空会社が、客室乗務員を全国各地の様々な地域・企業に出向させているというニュースが出ていました。
このような緊急事態での雇用確保・人数調整として使われることは、必ずしもよくあるとは言い難いですが、緊急的にそのような目的で使われることもあるようです。
法令上は、例えば労働契約法14条で出向命令が無効になる場合について定められています。
「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」
出向は、労働契約の一部を構成しますので、使用者と労働者の間で合意があれば、合意に基づく出向ということで有効に機能します。
使用者・企業が一方的に出向命令を出す場合であっても、例えば就業規則に出向について定めれている場合や、個別の労働契約書で出向について定められている場合、出向に同意していると考えられる状況にあるなど、何らかの出向の根拠となる状況は必要でしょう。
近年は、労働者の同意がなくても出向命令が認められるという裁判例も出ているようですが、予め出向の根拠となる規定などを整備しておく方が無難でしょう。
先ほどの労働契約法14条にもあるように、企業側に出向命令権があるとしても、個別の事情によっては出向命令が無効になる可能性もあります。
労働契約法14条では、例として、①必要性、②対象労働者の選定に係る事情、③その他の事情を考慮して、出向命令権を濫用したものと認められるかどうかで判断するようになっています。
例を考えますと、例えば労働者を自主退職させる目的で出向させる場合や、あまりに長期間の出向をさせるような場合には、その必要性がないと判断される可能性があります。
また、介護や育児で住んでいる場所を離れることができない労働者を、そうでない労働者よりも優先的に出向させるような場合には、対象労働者の選定に係る事情(他の労働者で代替可能)として考慮される可能性があります。
権利を濫用したかどうかは、色々な事情を総合的に考慮して判断されますので、最終的には企業が出向させる必要性・理由と、労働者側の出向することが不都合な事情の比較衡量によって決まってくるのではないかと考えられます。
上記の出向は、出向元企業との労働契約を維持した状態での出向(いわゆる「在籍出向」)を前提にしています。
転籍という場合には、元の企業との労働契約を解消し、新しい企業と労働契約を結ぶことになりますので、原則として労働契約の解消のために労働者の合意を必要とし、使用者・企業の一方的な命令では転籍させることができないことに注意が必要です。
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