令和2年5月15日、厚生労働省は「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」を公表しました。本年6月1日より、パワーハラスメント防止対策が法制化されたことなどを踏まえ、精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しに関する検討をとりまとめたものとなります。
労働基準監督署が、保険給付の原因となった災害(負傷、疾病、障害、死亡)が業務に起因して発生したか否かを判断することを、一般に「労災認定」といいます。この中で、精神障害が業務に起因するかどうかを認定する基準として、平成23年12月26日に「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下、「認定基準」という)が公表されており、これに基づき労災認定が行われています。
今回の改正は、この「認定基準」の一部が見直され、以下の部分が主に改正されました。認定基準の評価表を明確化、具体化することで請求の容易化、審査の迅速化を図る目的とのことです。
認定基準の評価表では、心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」の3ランクに分け、その具体例を列挙しています。「強」にあたると認定され、かつ、業務以外の出来事、個体側要因がなしの場合には、業務起因性の精神障害と認定されます。
これまでは、認定基準内に「パワーハラスメント」という文言がなかったが、
具体的出来事等へ「パワーハラスメント」が新規追加
【「強」と評価される例】
具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として位置づける
【「強」と評価される例】
上司等からのパワーハラスメント、同僚等からの暴行等のどちらにおいても、「心理的負荷としては中程度の暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合」は、心理的負荷強度「強」の具体例に当てはまるとされています。
パワーハラスメントの防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務になりました。施行日は、令和2年6月1日です。
パワーハラスメントの措置義務については、中小企業※は、2022年(令和4年)3月31までの間は、努力義務となります。詳細な対策は指針で示されています。
※「中小企業」の定義は、労基法改正に関する「中小企業」の定義と同じで、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかが以下の基準を満たしていれば、中小企業に該当すると判断されます。なお、事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。
業種 | 資本金の額または出資の総額/ 常時使用する労働者数 |
---|---|
小売業 | 5,000万円以下または、50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下または、100人以下 |
卸売業 | 1億円以下または、100人以下 |
その他 (製造業、建設業、運輸業、その他) |
3億円以下または、300人以下 |
パワーハラスメント対策の関係法令、指針は、東京労務局のサイトを参照してください。
令和2年6月1日からの職場のパワーハラスメント対策の法制化をうけ、より具体的な労災認定基準が明記されたこととなります。セクシュアルハラスメントに関しては、従前より、認定基準中の評価表に具体例として明記されていましたが、この度パワーハラスメントについても具体例が明記されたことで、職場を管理する事業主の方にとってますますハラスメント対策が重要な経営課題となったことは間違いありません。
日頃から、職場の安全衛生に関し目を背けることなく健康経営を目指すことが重要となることでしょう。
事務所外観
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