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弁護士 杉浦恵一

社宅と借地借家法の関係

近年の人手不足から、企業では賃金だけでなく福利厚生として社宅を提供する企業も多いのではないかと思われます。特に、技能実習生や特定技能で入国した外国人は、簡単に賃貸物件を借りられないこともよくあるようです。

このような場合に、企業がまとめて物件を借り上げ、社員に社宅として提供をする場合もあるようです。

賃貸物件の貸し借りに関して、日本では借地借家法があり、一般的には借主に有利・借主保護が手厚い法律であると言われています。

例えば借家の賃貸借に関して、借地借家法では、26条1項で、「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。」と定められており、基本的には自動更新になっています。

また、同条2項では、「前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。」とされておりますので、期間満了後も賃借人が使用を続けた場合、異議を述べないと契約更新されたことになってしまいます。

このような法律がありますので、社宅の場合に、借地借家法が適用されるのか、されないかで対応が変わってくる可能性があります。

まず、「社宅」といっても色々なパターンが考えられます。企業が建物を借りたり、自分で所有したりして、社員に使用させるという場合もありますし、社員が自分で借りて、企業が家賃の一部を補助するというパターンもあります。

後者のパターン(社員が自分で借りて企業が補助するパターン)であれば、企業が貸主になっているわけではありませんので、企業との関係では借地借家法の適用は問題になりません。

前者のパターン(企業が社員に貸し出すパターン)では、どのような条件で社員に社宅を使用させるのかによって、借地借家法が適用されるのか否かが変わってくる可能性があります。

「社宅」について、法律上の明確な定義があるわけではありません。参考に、国税庁のQ&Aのうち「従業員社宅の敷地の評価」では、「社宅」に関して、「社宅は、通常社員の福利厚生施設として設けられているものであり、一般の家屋の賃貸借と異なり賃料が極めて低廉であるなどその使用関係は従業員の身分を保有する期間に限られる特殊の契約関係であるとされています。そしてこのことから、社宅については、一般的に借地借家法の適用はないとされています。」と解説されています。

ここでの「社宅」の要素を見ていきますと、①社員の福利厚生施設として設けられている、②賃料が極めて低廉、③使用関係は従業員の身分を保有する機関に限られる、といった点が要素として抜き出せます。

このように、一般的な賃貸借関係とは異なる特殊な契約関係(いわば社宅の使用契約という特殊類型の契約)であれば、借地借家法は適用されないという余地もあります。

逆に、企業が社員に社宅を貸し出す場合であっても、一般的な周辺相場の賃料に近い賃料を徴収しているような場合には、一般的は賃貸借契約、賃貸人と賃借人との関係と変わらないということで、借地借家法が適用される可能性があります。

借地借家法が適用される場合には、同法30条で、「この節(注:第一節 建物賃貸借契約の更新等)の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」という条文や、同法37条で、「第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。」という条文がありますので、例えば、社宅の使用規約・社内規定などで、退職した場合には社宅の使用ができなくなる、つまり退去しなければならないと定められていても、借地借家法の定めよりも賃借人に不利だとして無効となるおそれがあります。

最高裁判所の昭和39年3月10日判決では、社宅の使用関係は(旧)借家法の適用を受ける一般的な賃貸借関係とは異なり、社宅使用に関する特殊な契約関係であるため、退職とともに社宅を明け渡す義務があることを認めた原審判決の結論を認めています。

他方、東京地方裁判所の平成9年6月23日判決では、社員寮に入寮できる期間を満35歳までと変更した企業が、36歳であった社員に社員寮の明渡を求めた事案で、寮の利用関係は、従業員に対する福利厚生施策の一環として、寮の規程によって規律される特殊な契約関係であり、寮室の利用と使用料との間に対価性が認められないことも考慮すれば、特段の事情のない限り、企業は規程の改正という方法で利用関係の内容を変更することができる、とした裁判例もあります。

この裁判例では、寮の部屋の使用と使用料との間に対価性が認められるかどうかも考慮要素の1つになっていますので、やはり使用料が一般的な賃料相場と比べてどうかは、重要な要素になりそうです。

企業にとって、退職した社員がいつまでも社宅に住み続けることは、福利厚生等の関係で問題だと感じられることが多いのではないでしょうか。条件や社宅の規約の内容によっては、退職した社員を社宅から退去させられないという事態も生じるかもしれませんので、注意が必要でしょう。

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