弁護士 杉浦恵一
近年では、パート・有期雇用者法(正式名「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)が制定・改正され、同一労働同一賃金の意識が高まってきています。
同法では、通常の労働者(以下「正社員」と表記します)と短時間・有期雇用労働者との間で、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて不合理な待遇の相違の禁止」(同法8条)、「短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取り扱いの禁止」(同法9条)といった内容が定められています。
このような内容を基に、近年では、短時間・有期雇用労働者と正社員との間の手当等に関する不合理な待遇差に関して、金員の補填を認めるような裁判例が出てきています。
しかしこれまでは、短時間・有期雇用労働者と正社員との間の待遇差が問題になっても、正社員(=期限の定めのない労働者)同士の間での待遇差は明確に問題にされてはいなかった傾向がありました。
同法では、「短時間労働者」を「一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」として定義し、「有期雇用労働者」を「事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者」と定義しています。
しかし、例えば通常の労働者・正社員・期間の定めのない従業員の中でも「一般職」と「総合職」に分かれていたり、「嘱託社員」、「契約社員」といったように法律上特に定義のない独自の用語で社内で区別されているなど、正社員の中でも待遇などが分かれていることがありました。
このような期間の定めのない社員間での待遇差について問題となった裁判例として、仙台高等裁判所 令和7年9月11日判決が出されました(注:上告不受理により高等裁判所判決が確定)。
この裁判例の事案・判決文の内容が正確には不明なのですが、報道されている限りでは、以下のような内容のようです。
・原告は、競馬場の場外馬券売り場で勤務していた。
・雇用期間は無期(期限の定めがない)であり、所定労働時間や残業の有無はその他の正社員と同様であった。
・社内での身分は「嘱託」(後に「契約社員」に変更)。
・他の正社員と比較して、基本給、ボーナス、住宅手当が少なく、家族手当が支給されていない。
このような待遇差があったことから、原告は、勤務先に対して、他の正社員に支給された額との差額である約3600万円の損害賠償を求めて提訴をした、という経緯のようです。
これに対して第一審の青森地方裁判所(八戸支部)での判決では、法律上の具体的な定めがなくても正社員間(無期雇用の社員間)での不合理な差別は許されないとして、家族手当・住宅手当の差額及び正社員のボーナスの7割との差額を損害として認め、基本給の差については不合理とは言えないとした、とのことです。
これに対して、控訴審である仙台高等裁判所の判決では、第一審と概ね同様の判断をしたものの、パート・有期労働者法の改正が施行された2020年4月以降、社会が守るべきルールとして同一労働同一賃金という「公序」(公の秩序・ルール)が確立したとして、この頃以降の待遇差を損害として認めた、ということです。
第一審、控訴審での違いとしては、損害として認められた期間が異なったことから、第一審と比較して控訴審の方が賠償額が少なくなっています。
このような一定の時期に一定のルールが確立したとするような判断方法は、過去に例がないわけではありません。
例えば、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1としていた民法の定めを憲法違反だとした最高裁決定(平成25年9月4日)では、過去の裁判例等(過去は同じ条文を合憲としていたもの)との整合性から、「遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。」とされています。
このように過去にも、一定の時期からは憲法違反であった(それ以後は違反していなかった)というような判断が出た例もありますので、一定の時期以降にルールが確立したことで、一定の時期からしか損害が認められないという場合もあり得ます。
この判決の内容が必ずしも他の例でも妥当するとは限りませんし、労働契約や業務の具体的な内容、制度設計によって変わってきますので、今後もこのような判断が続くのかどうか、注目する必要があるでしょう。
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